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大阪地方裁判所 平成4年(わ)3585号 判決 1994年7月12日

本店所在地

大阪府八尾市沼四丁目八五番地

株式会社

金井組

(右代表者代表取締役 金井こと金道男)

国籍

韓国

住居

大阪府八尾市南木の本二丁目二一番地の一四

会社役員

金井こと金道男

一九五三年一〇月二日生

右の者らに対する各法人税法違反、建築基準法違反被告事件について、当裁判所は、検察官八澤三郎出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社金井組を罰金四〇〇〇万円に被告人金井こと金道男を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人金井こと金道男に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人両名の連体負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社金井組(以下、「被告会社」という。)は、大阪府八尾市沼四丁目八五番地(平成三年四月、本店を同市太田新町八丁目一〇三番地から移転し、同年七月一日登記)に本店を置き、土木・建築工事の設計、監理施工並びに不動産の売買等を営むもの、被告人金井こと金道男(以下、「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた者であるが、被告人は、被告会社の業務に関し、

第一  法人税を免れようと企て、平成元年七月一日から平成二年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が五億三〇九七万一三一八円で、これに対する法人税額が二億二九一一万六三〇〇円であるにもかかわらず、不動産売上の一部を除外するなどの行為により、その所得の一部を秘匿したうえ、同年八月三一日、大阪府八尾市高美町三丁目二番二九号所在の所轄八尾税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一億七三二万六七三五円で、これに対する法人税額が五九六五万八三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期期限を徒過させ、もって、不正の行為により、右事業年度の法人税一億六九四五万八〇〇〇円を免れ(別紙修正損益計算書及び別紙税額計算書参照)

第二  トーエー産業株式会社(以下、「トーエー産業」という。)から、都市計画区域内であり、大阪府知事が、建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合を一〇分の二〇以下の住居地域と定めた大阪市平野区加美正覚寺一丁目三番二(敷地面積二七八・五六平方メートル)に、延べ面積一二一七平方メートル、、建築面積一五三・七平方メートル、高さ二六メートルの鉄骨造地上九階建共同住宅一棟を建築する工事を請け負った際

一  トーエー産業が大阪市建築主事から建築基準法六条一項に基づく建築確認を受けていないにもかかわらず平成二年四月中旬ころから右建築工事を施工したこと、同住宅の延べ面積の敷地面積に対する割合の制限に違反したこと及び日影による中高層の建築物の高さの制限に違反したことにより、同市建築監視員から、同年九月三日付け命令書により、直ちに右工事の施工を停止することを命ずる工事施工停止命令を受けたにもかかわらず、同命令を無視し、そのころから同年一二月上旬ころまでの間、右建築工事を継続し、もって、同市建築監視員の工事施工停止命令に違反し

二  同住宅に関する前記各違反事実により、同市長から、同年一〇月二二日付け命令書により、同命令書到達の日の翌日から六〇日以内に、同住宅の延べ面積の敷地面積に対する割合を一〇分の二〇以下とすること、同住宅の日影による中高層の建築物の高さの制限に抵触する部分を除去すること等の違反建築物措置命令を受け、右命令書は同月二四日到達したにもかかわらず、同命令を無視し、その期間内に右命令に適合する措置を購ぜず、もって、同市長の違反建築物措置命令に違反し

第三  トーエー産業から、都市計画区域内であり、大阪府知事が、建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合を一〇分の三〇以下の住居地域と定めた大阪市都島区都島中通二丁目一〇四番三及び一〇五番地(敷地面積四一三・六八平方メートル)に、延べ面積一四〇三・四七平方メートル、建築面積二一三・二一平方メートル、高さ二〇・九七メートルの鉄骨造地上七階建共同住宅一棟を建築する工事を請け負った際

一  トーエー産業が大阪市建築主事から建築基準法六条一項に基づく建築確認を受けていないにもかかわらず右建築工事を施工したことにより、同市建築監視員から、平成四年三月四日付け命令書により、直ちに右工事の施工を停止することを命ずる工事施工停止命令を受けたにもかかわらず、同命令を無視し、そのころから同年六月上旬ころまでの間、右建築工事を継続し、もって、同市建築監視員の工事施工停止命令に違反し

二  同住宅に関するいわゆる容積率違反及び建築物の道路斜線制限違反等の事実により、同市長職務代理者大阪市助役から、同年四月一五日付け命令書により、同命令書到達の日の翌日から二〇日以内に、同住宅の延べ面積の敷地面積に対する割合を一〇分の二一・八以下とすること、前面道路幅員による建築物の高さ制限に抵触する部分を除却すること等の違反建築物措置命令を受け、右命令書は同月二七日ころまでに到達したにもかかわらず、同命令を無視し、その期限内に右命令に適合する措置を購ぜず、もって、同市長職務代理者大阪市助役の違反建築物措置命令に違反し

たものである。

(証拠の標目)

<注>括弧内の算用数字は記録中の証拠等関係カード(検察官請求分)記載の当該番号の証拠を示す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書二通(平成五年わ第一五九九号事件の請求番号《以下同じ。》36、37)

一  森木進(26)、中川秀之(27)、西野政裕(28)、張基龍(29)、西山安雄(30)、山本道弘(31)、徳永正(32)、張新吉(32)、藤本純(二通、34、35)の検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の捜査報告書(3)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(1)

一  大蔵事務官作成の証明書(2)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二二通(4ないし25)

一  法人の登記簿謄本(38)

判示第二及び第三の事実について

一  第一一回公判調書中の被告人の供述部分

一  第五回ないし第七回公判調査中の証人高山こと高基彦の供述部分

一  第八回公判調書中の証人山村こと崔雅文の供述部分

一  検察事務官作成の報告書(平成四年わ第三二六六号、第三五八五号事件の請求番号)《以下同じ。》150)

一  法人の登記簿謄本(70)

一  司法警察員作成の捜査照会書謄本(151)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官(二通、80、81)及び司法警察員(七通、73ないし79)に対する各供述調書

一  槙泰明(18)及び崔雅文(二通、29、30、いずれも謄本)の検察官に対する各供述調書

一  河原勲(6)、横山芳治(二通、7、8)、小川義雄(9)、瀬良章(10)、槙泰明(七通、11ないし17)、辻本章(三通、19ないし21)、宋三代子(22)、橋詰万幸男(三通、37ないし39)、金本正春(40)、池田喬(41)、荒田耕治(42)、米津均(153)、辻光男(154)、中村博(156)、井上明光(157)、渡邉一夫(158)、安田博一(159)、須見弘行(160)、渡辺武夫(161)、広兼素(162)、二宮政行(165)、小内強(166)、田中一雄(168)、吉田勝政(169)、山本昇三(170)、石橋常次(171)、の司法警察員に対する各供述調書

一  河原勲(二通、4、5)、三浦典也(155)、杉山一郎(163)、大野廣(164)、栗山稔(167)の司法巡査に対する各供述調書

一  司法警察員作成の捜査復命書八通(56ないし58、60ないし63、65)

一  司法巡査作成の捜査復命書二通(55、59)

一  司法巡査作成の写真撮影結果報告書(66)

一  大阪市長各作成の「建築基準法違反者の告発について」と題する書面(1)及び告発状(2)

一  大阪市計画局建築指導部監察課長各作成の上告書(3)及び捜査照会回答書(152)

一  大阪府建築部建築振興課長作成の捜査照会回答書(64)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官(129)及び司法警察員(六通、124ないし128、186)に対する各供述調書

一  西川弘(二通、98、99)、崔雅文(112、謄本)の検察官に対する各供述調書

一  森岡哲生(84)、下村忠重(85)、宮本修(86)、木下芳博(87)、中川秀之(二通、89、90)、中川恵子(91)、西川弘(六通、92ないし97)、橋詰万幸男(三通、102ないし104)、槙泰明(110)、内田国廣(172)、生駒千津子(173)、山下忠志(174)、中林博(175)、木下憲三(176)、井本政義(177)、石橋常次(178)、塩見芳一(179)、山下喜久雄(180)、吉瀬稔(181)、辻光男(182)、増村正巳(183)、和田一也(184)の司法警察員に対する各供述調書

一  木下芳博(88)及び杉山一郎(185)の司法巡査に対する各供述調書

一  司法警察員作成の捜査復命書四通(113、115ないし117)

一  司法警察員作成の写真撮影報告書(114)

一  大阪市計画局長作成の「建築基準法違反者の告発について」と題する書面(大坂市長作成の告発状を含む、82)

一  大阪府建築部建築振興課長作成の捜査照会回答書(123)

一  越野広司外一六五名作成の告発書(83)

一  土地の登記簿謄本二通(118、119)

一  法人の登記簿謄本二通(120、122)

(補足説明)

一  被告人の司法警察員に対する供述調書二通(平成四年わ第三二六六号、第三五八五号事件の請求番号《以下同じ。》128、186)、下村忠重(85)、中川恵子(91)、西川弘(二通、95、96)の司法警察員に対する各供述調書、大阪市計画局長作成の「建築基準法違反者の告発について」と題する書面(大阪市長作成の告発状を含む、82)によれば、判示第三の一の平成四年三月四日付け及び判示第三の二の同年四月一五日付けの各命令書の名宛人はナニワ建設であることが認められたので、被告会社に対する送達について検討する。

二  まず、右各命令書を出すに至った経緯につきみると、森岡哲生(84)、下村忠重(85)の司法警察員に対する各供述調書、大阪市計画局長作成の「建築基準法違反者の告発について」と題する書面(大阪市長作成の告発状を含む、82)、司法警察員作成の捜査復命書三通(113、116、117)、土地の登記簿謄本二通(118、119)によれば、次の事実が認められる。

(1)  大阪市建築指導部監査課係員の森岡哲生は、平成四年二月四日に川勝正幸から大阪市都島区都島中通二丁目一〇四番三及び一〇五番の土地(敷地面積四一三・六八平方メートル、以下「本件現場」という。)上に違法建築がなされている旨通報を受けた。

(2)  森岡は以前にも本件現場について応対したことがあり、建築確認申請の有無を確認したところ、建築主を橋詰万幸男として確認申請が出ており、森岡は同課主査で建築監視員の下村忠重に川勝からの通報内容を報告した。

(3)  森岡と下村は、同月六日午後三時ころ、本件現場へ行ったところ、防護フェンスで囲われ、現場の出入口の右側に確認の表示板と建築業の許可表が貼ってあり、それによると施工者がナニワ建設であることがわかった。

(4)  森岡と下村は、本件現場に立ち入ると、森岡が以前見覚えのある金井組の金沢某がいたので、森岡が金沢に現場監督が金井組の金沢であるかと質問すると、同人は金井組を辞めてナニワ建設にいる旨答えた。

(5)  森岡が金沢にナニワ建設の場所を聞くと、金沢は本社が駒川にあるが、連絡は八尾の事務所にしてもらうように答え、具体的な電話番号を言った。

(6)  森岡は同月一七日に川勝から本件現場の杭の位置が違うので調べて欲しいこと等連絡を受け、同月一八日下村と一緒に本件現場へ行き、金沢に確認したところ、金沢は詳しいことは主任の宮地に聞いてくれとの返事であった。

(7)  森岡は同月一九日ナニワ建設の主任の宮地に電話でナニワ建設が施工している都島の現場が近隣者との話し合いがどうなっているか聞いたところ、宮地はナニワ建設が今までに二、三回近隣者説明会をしているはずだが、問題があるようだったらちゃんと言っておく旨答えた。

(8)  森岡と下村は、同月二八日本件現場に立ち入り調査をしたところ、基礎となる杭が出ており、その杭の位置が確認申請図面の杭の位置と違っていたので、森岡は金沢にこの点について質問し、金沢の足元を見ると施工図が置いてあり、現況と同じ施工図で申請図面とは著しく異なるものであった。

(9)  森岡は金沢に対し一二条三項の変更届けをして確認を受けないと違反と断定して、工事の停止命令を出す旨述べて厳しく指導すると、金沢は会社から言われたとおりにやっているだけであり、会社に申請と違うので確認を受けるように伝える旨答えた。

(10)  森岡は、同日帰庁後、本件現場の工事監理者で確認申請建物の設計者である木下芳博に電話で同人が本件現場の工事監理者であるかどうかを確認したところ、木下は橋詰から申請までのことを頼まれただけで、その後は関係ない旨答えた。

(11)  木下は同年三月三日に来庁し、橋詰からは設計から確認申請までを依頼され、工事監理者もやるように言われたが、後で施工者の方で監理するということになったこと、変更届けをするまで工事を中止するように内容証明を出すこと等を述べたのに対し、森岡は変更届けをすることと違反建築物とならないように建築主に話をして報告するように指示した。

(12)  森岡と下村が同年二月三日と同月一八日に立ち入り調査した際、現場監督の金沢が申請図どおりやっていると言っていたのに、同月二八日の立ち入り調査では申請図と全く違う施工図で杭打工事を進め、基礎となる杭打ちが完了しており、このまま放置すれば無確認の違反建築物が建つ虞れがあり、完成すれば是正困難となり、早急に手を打たないと違反建築物が建つと建築監視員である下村が判断し、同年三月四日付で建築主の橋詰と施工者のナニワ建設に違反建築物施工停止命令書を出した。

(13)  ナニワ建設の宮地が同月五日に来庁し、工事監理者の変更届けを持って来たが、不備な点があったので受理せず、その際、森岡は現場施工図は誰が書いたか聞くと宮地は橋詰から貰った図面によりナニワ建設が書いた旨答えた。

(14)  そこで、森岡は宮地に対し、現状建物の図面を早急に持ってくることと確認を受けるまで工事を停止するように口頭で命じたところ、宮地はわかった旨答えて帰った。

(15)  宮地は同月九日に来庁し、工事監理者の変更届と工事施工者の選定届を持ってきたが、工事監理者は一級建築士の角田勝一、工事施工者はナニワ建設の中川秀之にする旨の届出であった。

(16)  森岡は宮地に対し、「ナニワ建設には、既に工事施工の停止命令書が届いている筈や、直ちに工事を停止することと、鉄骨を搬入しても工事をしたとみなすぞ」と重ねて工事の停止をするように言うと宮地は会社にその旨報告する旨述べた。

(17)  森岡と下村が同月一三日に本件現場へ行くと三階の床部分全体が建ち上がっており、現場にはナニワ建設の現場監督も社員もおらず、職人がいるだけで工事の停止を命じても職人の判断では停止できないことから、下村がナニワ建設に電話して同社の西川営業次長に対し、工事の停止を命令したところ、西川が現場の職人と話をして工事を停止して一応引き上げた。

(18)  森岡が同月一八日に本件現場へ行くと同人らが掲示した標識が引き抜かれ、本件現場に鉄骨が運びこまれており、森岡がヘルメット姿の現場監督らしい者に現場監督かどうか聞くとその男はナニワ建設の月岡である旨答えた。

(19)  森岡は月岡に対し「停止命令が出ていることは知っているやろう、直ぐに工事を辞めなさい。」と言ったことろ、月岡は会社の命令でやっているので会社に言うように答えた。

(20)  森岡は西川に電話で直ぐに止めさせるように言ったところ、最初は鉄骨を入れさせて欲しいと言っていたが、森岡が再度中止するように言ったところそれ以上の鉄骨の搬入は止めた。

(21)  その後も停止命令を無視して違反行為が続き、最終的に同年四月一五日付けの命令書がナニワ建設宛に出された。

三  次に、本件現場に地上七階建ての仮称トーエー京橋ビル(以下、「本件建築物」という。)を建築する際の請負契約及びその締結までの経緯並びに本件各命令書が被告人に達した経緯についてみるに、第一一回公判調査中の被告人の供述部分、証人高山こと高基彦の第五ないし第七回公判調書中の各供述部分、被告人の検察官(129)及び司法警察員(四通、126ないし128、186)に対する各供述調書、山村こと崔雅文(112、謄本)、西川弘(98)の検察官に対する各供述調書、宮本修(86)、木下芳博(87)、西川弘(92ないし97)、橋詰万幸男(三通、102ないし104)、槙泰明(110)の司法警察員に対する各供述調書、木下芳博(88)の司法巡査に対する供述調書、検察事務官作成の報告書(150)、法人の登記簿謄本二通(120、122)によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  被告会社は、平成元年ころから、高山こと高基彦が代表取締役である不動産会社トーエー産業と取引を始め、同社マンション建築工事を請負施工していた。

(2)  被告会社では、トーエー産業からの建築工事の受注は主に被告人が相当し、営業関係に営業本部長の山村こと崔雅文が被告人の指示を受けて契約等の営業を担当し、建築部門は、取締役工事部長の槙泰明が設計、監理を行って見積額の積算等を主に担当していた。

(3)  トーエー産業は本件建築物を計画し、平成三年三月に最終的に建築確認申請を受けたが、その際、建築主をトーエー産業の従業員橋詰万幸男名義でダミーとして確認申請を受けた。

(4)  トーエー産業の高社長は、確認申請どおりのビルを建築する意思はなく、建築基準法の基準を超えるビルを建てるつもりでいたことから、確認申請の図面とは、別に、改めて、本件建築物の図面を作成させて、同年四月ころ、その図面を被告会社に渡して工事の見積もりを依頼した。

(5)  被告会社では同月ころ被告人が槙に見積もりを指示し、同年五月に見積額三億二二〇〇万円と決定し、被告人が高社長と交渉した結果、同年一二月ころ、請負人被告会社と注文者トーエー産業との間で請負代金二億八一〇〇万円で本件建築物の建築工事請負契約書が締結され、工事着工にかかった。

(6)  被告人は形式的にはナニワ建設を施設業者として実施させることにした。

(7)  平成四年二月に基礎工事が再開した際、基礎の杭打工事は槙と金沢秀光が、地中梁工事は辻本と内山がそれぞれ現場監督として本件現場に行っており、同年三月一八日に前記監査課係員森岡が本件現場に行った際にナニワ建設の月岡と名乗ったのは右辻本であった。

(8)  前記一の平成四年三月四日付け命令書は、同月五日ころに中川秀之の妻である中川恵子が受け取り、開封してその内容を読んで、すぐに、同市沼四丁目八五番地のナニワ建設に郵送し、同月一〇日ころにナニワ建設に届いた。

(9)  右転送されてきた命令書を見た西川弘は被告人に右命令書を手渡し相談したところ、トーエー産業に右命令書が送られて来たことを連絡し、大阪市と相談するように指示された。

(10)  さらに、前記一の同年四月一五日付け命令書は、同月二〇日ころに前同様に中川恵子が受け取り、ナニワ建設に郵送し、同月二七日ころ右ナニワ建設に届いた。

(11)  西川は右転送されてきた命令書を確認した後、被告人に右命令書を見せた。

四  そこで、ナニワ建設と被告人及び被告会社との関係についてみると被告人の司法警察員に対する供述調書三通(126ないし128)、西川弘(99)の検察官に対する供述調書、中川秀之(89、90)、中川恵子(91)、西川弘(92)の司法警察員に対する各供述調書、大阪府建設部建築振興課長作成の捜査照会回答書(123)、法人の登記簿謄本(122)によれば、次のような事実が認められる。

(1)  ナニワ建設は、昭和五七年四月に中川秀之が田辺秀一と共同で創り、交通安全の施設関係の工事を業とし、昭和六〇年には法人化して、資本金が三〇〇万円(一株五〇〇円で六〇株)、代表取締役中川秀之、取締役田辺秀一、取締役中川恵子、監査役田辺正子がそれぞれ就任した。

(2)  ナニワ建設は、平成二年一月ころ、立替払の資金に困り、中川秀之が被告人に資金を借りた際、被告人は中川秀之に対し金井グループに入るように誘った。

(3)  ナニワ建設は、同年四月末ころ、金井グループに入ることに決まり、同年五月末ころ、被告人から二七〇〇万円の出資を受け、五四〇株の増資をなし、被告人はナニワ建設の取締役となった。

(4)  被告会社の本社が平成三年四月ころ八尾市太田新町八丁目一〇三番地から同市沼四丁目八五番地に移転したのを契機に、被告人は中川秀之に対し、ナニワ建設の事務所を右移転後の被告会社の本社ビル一階に移すように指示した。

(5)  しかし、ナニワ建設が大阪市の入札参加指名を受けており、本店所在地を大阪市区域外に移すことは指名からはずされてしまうので、本店所在地は同市東住吉区駒川五丁目一九番五号の当時中川秀之が住んでいた所に変更して届け出て、電話だけで、設置したうえ、転送装置を付け、ナニワ建設の社員全員が被告会社の本社ビルの一階に移転し、ナニワ建設の看板を出した。

(6)  金井グループに入ってからの中川秀之の仕事は、ナニワ建設の統括と被告人の補佐的なことであったが、徐々に被告人がナニワ建設の実印や手形、小切手を管理したり、ナニワ建設の仕事に関し、ナニワ建設の社員に直接指示するようになり、中川秀之の発言力がなくなり、同年八月末には出社しなくなった。

(7)  中川秀之がいなくなった後は、ナニワ建設の実権は被告人が有しており、同年九月二七日ころの幹部会では、被告人が西川弘に対し、ナニワ建設の社長代行になるように言い、西川弘がナニワ建設の社長代行に就任した。

(8)  中川秀之は同年一〇月ころ、被告人宛の辞任届けを郵送し、その後も被告人の統括の下、西川弘がナニワ建設の社長代行として運営にあたっていた。

五  以上の事実によれば、本件各命令書はナニワ建設の社長代行の西川弘を通じて被告人にも達しており、本件建築物の契約上の請負人は被告会社で、実質的にも被告会社がその後の工事も施工しているのに、形式的にナニワ建設に施工させる形をとっているうえ、ナニワ建設の代表取締役である中川秀之が平成三年九月ころから出社しなくなった後は、西川弘を社長代行ということにしたが、被告人がナニワ建設の実権をすでに握っており、右西川を統括していたものであるところ、登記簿上依然として中川秀之が代表取締役となっていたものであり、さらに、前記二の経緯でみたように、本件現場の状況、本件現場における現場監督等の応対、西川の対応等によれば、大阪市当局は本件工事の施工者としてはナニワ建設以外に知ることができる状況になかったことが認められ、本件各命令書は、右西川らを介して被告人に伝達され、被告人はこれを了知しており、本件各命令書は、実質的施工者である被告会社の代表取締役である被告人に対して適法有効に発出・送達されたものと認めるのが相当である。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は法人税法一五九条一項に、判示第二の一及び第三の一の各所為はいずれも建築基準法九八条、九条一〇項前段に、判示第二の二及び第三の二の各所為はいずれも同法九八条、九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重した刑期の範囲内で被告人を懲役二年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人及び被告会社に連帯して負担させることとする。

被告人の判示第一ないし判示第三の各所為はいずれも被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、被告人の判示第一の所為につき、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項所定の罰金刑に処すべきところ、情状により同条二項を適用して、罰金額をその免れた法人税の額以下とし、被告人の判示第二及び第三の各所為につき、いずれも建築基準法一〇一条により同法九八条の所定の罰金刑に処すべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、同法四八条二項により各罪の罰金額を合算し、その金額の範囲内で被告会社を罰金四〇〇〇万円に処し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告会社及び被告人に連帯して負担させることとする。

(量刑の事情)

被告人の本件第一の犯行は、ほ脱額が一期で一億六九四五万八〇〇〇円と高額で、そのほ脱率も七四パーセントと高率であり、悪質な犯行と言わざるを得ない。被告人は、本件犯行の動機として、被告会社の株式上場をにらんで将来の事業資金が少しでも多く欲しかったと言うが、これらは本来税引後の内部留保資金によってなされるべきものであり、動機において特に酌量すべきとも思われない。そして、被告人は、ほ脱によって得た資金を仮名預金として留保し、さらに、虚偽の契約書の作成者に手数料として支払ったり、被告会社の資金繰りや土地取得資金に充てたりしていた。

また、本件第二及び第三の犯行も、再三の工事施工停止命令等に違反してなされた犯行であり、平成二年度と平成四年度になされていることを考えると執拗かつ悪質な犯行である。

しかしながら、被告人は本件第一の犯行を認め、また、第二及び第三の犯行については当初は争っていたものの、第一二回公判に第二及び第三の犯行も認め、当公判廷において反省の態度を示していること、被告会社はすでに修正申告を済ませ、国税との間で本税等の納税について合意し、有価証券によりすでに納付していること、被告人は建築基準法違反事件について逮捕、勾留されたこと、被告人にはこれまで外国人登録法違反、業務上過失傷害、傷害罪による罰金前科三犯があるだけで懲役刑の前科がないこと、被告人の妻が当公判廷において被告人のために証言していること、被告人は妻と六人の子供がいること等を被告人や被告会社に有利な事情として考慮して被告人に対しては主文の刑に処するがその刑の執行を猶予して自力更生の機械を与えることとし、被告会社に対しては主文の刑が相当であると思慮する。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 松下潔)

別紙 修正損益計算書

<省略>

別紙 税額計算書

<省略>

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